京王線連立事業の都市計画案と同事業の環境影響評価準備書への意見書を提出 |
以下に石原慎太郎東京都知事と保坂展人世田谷区長宛ての意見書を掲載します。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2011年6月22日
石原慎太郎 様
保坂 展人 様
提出者 木下泰之
「都市高速鉄道第10号線京王電鉄京王線(笹塚駅~つつじヶ丘駅間)連続立体化・複々線化計画及び鉄道付属街路」都市計画案と同事業の環境影響評価準備書への意見書
1、全線地下化案を比較設計に含めて検討をし直すべきだ。
東京都が道路法による法定調査として実施した平成21年3月の「京王京王線(代田橋駅~八幡山駅付近)連続立体交差事業のための事業調査及び関連調査」報告書(東京都、京王電鉄株式会社)は、標題にもかかわらず、笹塚駅からつつじヶ丘駅間についての調査を行っており、そのうえで、構造形式の選定にあたっての前提条件を次のように決めている。
4-33-1構造形式の選定
検討における基本的な考え方は、以下のとおりとする。
(1)基本的な考え方
①検討区間の交差踏切25箇所をできる限り除去する。
②立体化後の駅は、原則として同一とし、廃止を行わない。
③高架式で複々線化が完了している笹塚駅と八幡山駅の改築は原則としておこなわない。
④連立線・線増線の実施時期が異なる場合でも、対応可能な構造形式とする。
*一期施行:連立線、二期施行:線増線
なお、掘割式構造については、鉄道跡地の利用が不可能(困難)であり、鉄道の南北に形成された市街地の一本化を図ることが困難なため除外する。
現在、京王線は新宿・幡ヶ谷間が4線地下化で列車が運行されており、国領駅から調布駅間についても4線地下化の工事が進められている。この状況を鑑みれば、4線とも地下シールドで繋ぐと考えるのが普通である。にもかかわらず、あえて、「高架式で複々線化が完了している笹塚駅と八幡山駅の改築は原則としておこなわない。」ということを前提条件とするということは、常識的に考えて一番合理的であり、費用的にも安上がりとなるはずのシールド4線による全線地下化案を初めから除外したということである。
上記条件の下で、4線高架案と2線高架・2線地下案、「4線地下案」を検討し、4線高架案が2200億円、2線高架・2線地下案が2200億円、4線地下案が3000億円で、費用の点からいって、「4線地下案」は取れないとし、2線高架・2線地下案を最適案として採用したとしている。
しかしながら、比較設計したという「4線地下案」なるものは、線増線についてはなぜか世田谷区内駅はノンストップを前提としてシールド地下であるにかかわらず、在来線については笹塚駅の高架から地下に移行し地下から高架の八幡山駅に移行、ここからまた地下に移行しつつじヶ丘駅に向けて地上に出てくるという仕様になっている。線増線のシールド地下は700億円であるにかかわらず、一方、在来線はジェットコースターのような仕様を開削工事でおこなうため2300億円もかかり、結局「4線地下案」は合計で3000億円ということにしているのである。
この様な比較設計は不当というほかはない。
比較設計においては、幡ヶ谷駅から国領駅をつなぐ4線シールド地下案と、笹塚の高架駅を温存したとしても八幡山駅を地下駅とする4線シールド案を加える必要があるし、そうでなければ、合理的な比較設計をしたということにはならない。東京都は比較設計をやり直すべきであるし、世田谷区はやり直すよう東京都にもとめるべきである。
この事業の不可解なところは、調布駅・国領駅間が地下化で事業をしているのに、芝崎駅とつつじヶ丘駅のみ未定としたうえで、笹塚駅・つつじヶ丘駅間の線増連続立体化の都市計画変更を行っていることである。
しかも前提条件には「連立線・線増線の実施時期が異なる場合でも、対応可能な構造形式とする。(*一期施行:連立線、二期施行:線増線)」とある。
線増線については2期工事としたうえで、在来線の高架工事に10年かけた後に4年間でおこなうこととしている。線増線は世田谷区内に駅はつくらないとしているが、つつじヶ丘駅には線増スペシャル特急は止まるのだろうか止まらないのだろうか。つつじヶ丘駅・国領駅間を複々線にしようとすれば、改めて構造形式を再検討しなければならないのは言うまでもない。
つつじヶ丘駅を現行都市計画のまま高架駅とするのか地下化駅にするのか、国領駅・つつじヶ丘駅間の連立事業の実施や構造形式の変更を未定にしておいてスペシャル特急としての速達性の向上もないだろう。都市高速鉄道10号線の都市計画変更であるならば笹塚駅国領駅間を一括して変更すべきである。実際にはプランは定まっているのだろうが、この都市計画を後回しにしているのは、世田谷区内の在来鉄道の高架化誘導に他ならない。一括して行うこととなれば、シールド4線地下方式の優位性は明らかであるからである。
2、比較設計の積算根拠を含め、連立事業調査報告書を全面開示し積極議論を
小田急線連立事業での情報開示訴訟や事業認可取り消し訴訟をきっかけに、連立事業調査報告書は大部分は開示されるようにはなってきたが、今回の京王線の連立事業について、比較設計の積算根拠については都市計画案の段階になっても開示されていない。
計画案の段階で積算根拠について積極的に開示するべきである。
京王線については、平成21年の調査報告書のみならず、古くは平成元年の連立事業調査報告書が作成されているし、地下化優位を報告した調布駅付近の連立事業の調査報告書もあるが、それらの調査報告書については積算根拠も開示したうえで、市民がたやすく閲覧できるように資料室や図書館に備えておくべきである。
計画立案者である役人のみが情報を独占するべきではないし、積算根拠が開示されれば、代替案の積算や比較を交えた、より建設的な都市計画が成り立ちうるからである。
市民に見せれば混乱を招くとか、見せても理解してもらえないなどというのは、役人の越権行為も甚だしい。
また、連立事業調査についてはその報告書を当該の自治体にさえ渡していないことになっている。新区長となった保坂世田谷区長は積算根拠を示すよう東京都に申し入れると議会で答えている。今回の事業の関連側道や駅前広場及び交差道路の都市計画権者である自治体の長ですら、連続立体交差事業調査報告書という法定の基礎情報からも疎外された上で、手続きのみ進むということはあってはならないことである。
少なくとも、調査報告書は事業の基礎文書として、作成された段階で、すべてオープンにして、事業の諸手続きに進む前に、官民、専門家、市民を問わず、問題点をたたきあえるようにしなければ、調査の意味がない。
この面からも、手続きのやり直しを求めるものである。
3、異例ずくめの事業計画---京王線連立事業の気になる問題点
1)事業準備採択がなされたのは代田橋駅・八幡山駅間であるにもかかわらず、事業調査の段階で、つつじヶ丘まで拡張した調査が行われて、あたかも事業の準備採択がなされたかのようにして事業計画が進められようとしていること。このことは政府のゴーサインは出ているのか否かが問題になる。
2)単純立体交差化都連続立体化の事業費比較を「連立事業調査」で行った結果では、単純立体化の総和の方が連続立体化の費用よりも安上がりになっているが、あえて連続立体交差化を選んでいる建運協定のひとつの変容であり、そうであるならば、これまでとは違うロジックを構築すべきであるが、その説明は希薄である。
3)事業は在来高架を10年間の1期、終了後に線増線事業を4年かけて2期として行うとされているが、2期の事業化の担保は必ずしも取られていない。2期を行うか否か不確定であるならば、都市計画変更は在来線・線増線であっても事業は在来線のみということにしてもよさそうであるが、なぜか10年後に行われる2期工事の環境アセスまで、今から実施している。調査報告書では時期をずらしてやる設計が前提条件になっているが、このような事業形態があってよいのだろうか。
関連する事業として一緒に行うのはあってしかるべきだが、同じ京王線での違う対応を取っている地域もある。調布駅付近の連続立体交差事業では在来線・線増線について都市計画変更はしたが、線増線については事業を保留し、したがって環境アセスは在来線事業のみを行っているのである。
4)今回の事業は法アセスが適用されている。鉄道事業の場合7.5kmを超えれば法アセスの適用となる。国は政権交代時に代替案アセスを含む戦略的環境アセスの導入の姿勢を見せたが、未だに立法されていない。
東京都の環境影響評価条例では代替案アセスを行おうとすればできる。ところで東京都は自ら条例をつくっておきながら、代替案アセスについては及び腰であり、条例を活用できていないばかりか、事業主体が民間との共同事業である場合などは除外している。今回の事業は連立工事区間は7.1kmであり、複々線予定区間は8.3kmである。
この距離に注目されたい。10年後に行われる予定の2期工事の複々線予定区間の8.3kをもって国のアセス適用となっているのである。代替案アセスが未だに実施されない国のアセスに逃げ込んだと疑わざるを得ない。
もし、調布駅付近の連立事業のように、計画化と事業化を切り分けて、在来鉄道の事業のみを先行して行うとしたら、条例アセスが適用され、代替案アセスも適用できたのではないかと推察される。
4、総合アセスがなされていない--- 複合事業としてのアセスを実施せよ
連立事業は道路事業として企画され、高度成長期を通じて都市空間の高度利用と高層化や大規模再開発の引き金となるよう活用されてきたし、今でもそのように機能している。
しかしながら、都市に対する影響力が大きいことから、事業主体となる都道府県に法定の事業調査が義務づけられ、当該自治体を通じて都市計画や街づくりについて市民の声を収集することや、総合アセスを行うことが調査要綱で定められている。
平成21年3月の連立事業調査報告書を見ると、市民の声を拾うどころか、総合アセスさえ満足にやられた形跡は見られない。環境影響については法定のアセスで行うとしているが、連立事業は複合的な都市施設づくりとして機能する以上、今回おこなわれたような鉄道事業のみに絞ったアセスを行うのみでは不十分である。事業が引き起こす都市の変貌と環境影響を多角的にとらえるための調査を行うべきであり、この事業の本質が道路事業である以上、道路環境の変化による騒音・振動・大気汚染や自然環境・文化環境の変貌も視野に入れたものとするべきである。
5、3・11東日本震災を教訓として高架計画の安全性について再検証すべき
本件事業については、3月の公告縦覧の期間中に東日本震災があり、3月16日からの説明会は延期された。ところが、史上経験したことのないマグニチュード9の未曾有の地震を経験し、新幹線等の高架橋の橋脚がボロボロに崩れるという事態があったにもかかわらず、地震に対する京王線連立事業の安全性の有無や、安全策を講じた際の事業費の変化を検証してみようという動きは官側には全くなかった。
4月の統一地方選終了後に、以前とまったく同じ計画案を再度公告縦覧することを決め、しかる後に、4月28日にまとめられた土木学会の中間報告の都合のよい部分のみをうのみにして、宣伝材料として使い、東京都自らは事業についての安全性についての検討や検証を全く行おうとはしていない。
今回の地震はマグニチュード9という強力な地震であったとはいえ、内陸部の新幹線の被害は被害地域の震度や揺れ方との相関関係を詳しく検証しなければ、今後予想される首都圏直下地震への対応の参考にはならない。
また、土木学会と云えば、今回の福島第一原発を設計するに際しての津波予測を5メートルと予測したことで著名になっている。実際には16メートルを超える津波が同原子力発電所を襲ったのであり、同学会のレポートを鵜呑みにはできないはずである。土木学会は中立の立場の学者・研究者の集団ではなく、デベロッパーが多数参加する「学会」であることを忘れてはならない。
いずれにせよ、今回の東日本大震災の検証や活動期に入った地震への対応への対策を考慮したうえでの、高架であれ地下化であれ、構造形式による安全対策を万全としたうえでの都市計画案としなければ、今回の地震の教訓を生かしたことにはならない。
今回の計画案では南側に環境側道を取ろうとしていないが、側道の計画権者である世田谷区と杉並区は今回の連立事業の安全性について自らの責任で検討検証すべきである。橋脚が崩落した場合、コンクリート片が民家に落ちただけでも危険極まりないことは云うまでもない。
小田急線の事業認可取り消し訴訟で証言した専門家の意見によれば、安全性や環境や景観を配慮すれば南北に少なくとも13mづつの側道が必要ということになり、そうした場合は土地の買収費がかさむため、住宅地域での高架計画は断念せざるをえなくなるはずである。
6、京王線は地下に、地上は緑の避難路を
今回、東京都は2200億円をかけて在来線高架と線増線の地下鉄化を実施しようとしているが、線増のシールド地下鉄は700億円と既に試算をしている。笹塚を高架駅としてそのまま使い、代田橋・明大前・下高井戸・桜上水・上北沢・八幡山・芦花公園・千歳烏山の8駅を地下駅に転換する場合の試算をしてみよう。区の担当者によると地下駅には約100億円といわれているから、8駅の整備に800億円、もう一本シールドを同じ値段で引いたとして700億円(実際には2本分を一括事業とすればもっと安上がりとなる)として計2200億円で2線2層の4線地下シールド事業ができることになる。
ところで、今回の東京都の都市計画案の事業は1期工事に10年かけて在来線の高架工事を実施し、完成の後に2期工事として4年かけて線増地下を掘るというプランである。
ところが、2期工事については当事者である京王電鉄の幹部は将来の動向を見据えてとの表明を専門誌で語っている。そうであるならば、線増線は後回しにするなり、廃止にするなりして、在来線のみを地下化で先行しての事業とすれば、よろしい。
シールドを掘るのに700億円、8駅に100億円ずつ、そうすれば、1500億円で地下化による在来線の連続立体交差化事業が完成できることになる。
鉄道をシールドで地下に潜らすことのメリットは、騒音等の環境公害を生じさせないばかりか、地震には高架構造より強いということであろう。地下化についても安全対策は必要であるが、ノンストップの線増特急を8キロも走らせるより、中間地下駅が多い地下鉄構造の方が、いざという時の退避が可能になるというメリットも生ずる。最近では地下駅もシールド工法を使うことができるとされている。
地上の利用については緑の避難路とすれば、新宿御苑から仙川までの緑道がつながることになり、帰宅困難者対策にも、また、都市に生態系を回復するコリドーの機能も持たせることができる。
計画地域の京王線は甲州街道沿いにあり、もし在来線を高架とすることになると、甲州街道の上を走る首都高速道と京王の高架橋ではさまれる谷間の地域が広範に生ずる。このような地域は東京の他の地域にも例は少なく、このままの事業が進捗すると、高架鉄道騒音と連立事業で生ずる新たな自動車交通からの排ガス、従来の甲州街道と首都高速自動車走行による騒音と排ガスにまみれ、景観も極めて劣悪な環境条件の地域が生まれてしまうことになる。今回の環境アセスではこのような複合的な環境被害が進むことについての評価がされていない。
7、京王連立事業を契機に東京の都市計画の見直しを行うべき
3・11の未曾有の震災被害と原発事故はわれわれ日本人に、日本の都市計画の在り方について見直しを迫っていることは間違いない。
3・11の事態は強大な自然の猛威の前に人は謙虚になることが何よりも必要であるし、人工的な安全性の神話に安住することはいかに愚かであるかを教えている。
地下化にせよ高架化にせよ、構造そのものの安全性や環境の観点から再検討を行うべきであるし、関連事業との関係で都市に安全な空間をつくっていくという観点からも見直すべきである。
東京の都市計画は歴史をさかのぼって検証しておくべきだろう。1932年の東京緑地計画協議会が策定した東京緑地計画は東京50km圏、962.059haという広大なもので、戦後すぐに都市計画決定された戦後復興計画はこの計画を基礎に、河川や放射道路、放射鉄道沿いに都心に向かってくさび型に緑地を配置した都市計画であった。したがって、小田急電鉄などにも南北に30mずつのスパンで緑地が配置されて旧法秩序のもとで都市計画がされていたという歴史を忘れてはならない。
現在連立事業でも進められようとしている格子状の都市計画道路は緑地を配置することを前提に、多くは1946年にたてられたものであるが、戦後の歴史は緑地を廃止したにもかかわらず道路計画のみ残されてきたといういびつな歴史を持っている。
緑地を廃止してしまった以上、道路計画は抜本的に見直されなければ、バランスが取れない。
広範な緑地が最終的に整理され宅地への転換を目指して廃止され、区画整理すべき地域に組みかえられてしまったのは新法が施行された1969年6月直前の5月であったことは記録にとどめておかなければならない。そして、1969年9月に「都市における鉄道と道路の連続立体交差事業の建設省と運輸省の協定」いわゆる建運協定が発足した。
東京圏のメガロポリスへの変貌、危険と隣り合わせの東京への一極集中は、必然ではなく、まさに、戦後の効率と経済のみを優先した政治のなれの果てであって、それへの根本的反省を3・11の大震災と原発事故は私たちに突きつけている。
今回の連立事業を通じても、サスティナブルをこころがけ、より安全で環境にやさしい公共空間をつくっていくことこそが求められているといわなければならない。
その観点からも、京王線の連立事業は見直されるべきである。
以上