ネバリ腰の勝利!騒音訴訟、東京高裁和解で「高さ方向での規制」を実現 |
2014年7月31日の東京高裁での小田急騒音訴訟の和解については、マスコミ各誌の報道もあり大きな影響を広げています。 ただし、騒音問題については、わかりにくいかとも思われます。
そこで、今回の在来線の騒音問題について、ちょっとした解説を書いてみます。
原発問題での政府のかたくなさには驚かされますが、極めて古典的な環境問題であるはずの騒音問題に関してさえ、日本は極めて情けない「規制」状況であることを認識しておく必要があります。
日本では騒音に関して一応の環境基準はあります。
しかしながら、鉄道騒音は例外とされ、さすがに新幹線の騒音基準は定めてありますが、既に整備してある小田急線や京王線あるいはJR線など在来線の騒音基準はいまだにつくっていないのが現状です。
1995年(平成7年)12月20日に環境庁は、「新線または大規模改良に際して騒音の指針を定める。」として在来線鉄道の「指針」なるものをつくりましたが、これによると新しく企画する「新線」については、LAeq昼間(7時より22時)60デシベル、LAeq夜間(22時から翌7時まで)55デシベルと定めましたが、小田急線等の連立事業等や複々線事業については「大規模改良事業」と位置づけ、「大規模改良は改良前より低減」を指針としました。
一応、指針解説では「大規模改良では必要な技術的対策を講じることにより、Laeq(24時間値)は概ね65デシベル以下にすることが可能」と言及しましたが、結局は事業後に騒音が多少なりとも軽減すればそれでよしとしてしまったのでした。
したがって、在来線沿線では一般の環境基準では信じられないような騒音に一日中さらされることになっても、これまでは合法とされてきてしまったのです。
これに対して、いち早く、立ち上がったのが小田急沿線住民でした。
1970年に小田急線の高架計画が企画された際に、反対の声を上げ、区議会が前回は一致で地下化推進決議をあげたことにより、この目論見は頓挫していましたが、バブル期に東京の大規模再開発を目指して、高架による連続立体交差事業が東京の高度高層再開発のけん引役として位置づけられることによって一斉に取り組まれるようになりました。
当然のことながら、高架に反対し地下化を求める運動が、都市のあり方の問題のみならず、騒音低減のためにも第一義の取り組みとして追求されました。その取り組みはこれまでも紹介してきた通りです。
さて、「小田急騒音等複合汚染阻止訴訟」が提訴されたのは1998年。
1992年5月以降、沿線住民325名が申請し審理が続いていた総理府「公害等調整委員会」は本来の 任務である「責任裁定」を出さずに、「職権和解」で「解決」してしまおうと画策していることが発覚したのが1997年12月でした。
当時、「小田急線事業認可取り消し訴訟」原告で責任裁定にも参加していた沿線住民を中心に、この「調停和解」路線に批判がひろがり、結果、1998年4月に総理府「公害等調整委員会」が提示した「職権和解」に対しては参加者の4分の3が和解を拒否。一部参加者が受け入れた「職権和解」では2004年度末までにLAeq(24時間平均)65デシベルという目標値。一方、同年7月に出された「裁定」ではLAeq(24時間平均)70デシベル又はLAmax85デシベル超に受忍限度を認め、月3000円の補償を小田急に命ずるという極めて不十分なものでした。
この責任裁定を不十分として拒否し、新たな原告をも加えて1998年8月に提訴し闘いつづけてきたのが「小田急騒音等複合汚染阻止訴訟」原告団でした。同時期に、別の原告団(「小田急問題訴訟の会」)が同様の訴訟を起こしましたが、2004年8月には新たな規制を実現することもなく、総額4200万円の解決金(203名に対し)のみを受領して収束させていました。
今回、高裁段階で和解に至ったのは、在来鉄道騒音規制として初めて高架基盤面から1、2メートル地点、いわゆる「高さ方向の騒音規制」をLAeq昼間65デシベル、LAeq夜間60デシベルを約束させる内容を勝ち取ったことにあります。この規制は、従来の地上1.2メートル規制に換算すれば、LAeq昼間60デシベル、LAeq夜間55デシベル以下、つまりは環境庁指針の「新線基準」の値に匹敵するものです。
今回、「小田急騒音等複合汚染阻止訴訟」が高裁段階で和解に至ったのは、既に触れたように、在来鉄道騒音規制として初めて高架基盤面から1、2メートル地点、いわゆる「高さ方向の騒音規制」をLAeq昼間65デシベル、LAeq夜間60デシベルを約束させる内容を勝ち取ったことにあります。この規制は、従来の地上1.2メートル規制に換算すれば、LAeq昼間60デシベル、LAeq夜間55デシベル以下、つまりは環境庁指針の「新線基準」の値に匹敵するものです。
一方、和解による解決金は5500万円(原告118名)と一審判決認容金額の5倍ですが、自主騒音測定の実施や騒音コンター作成、16年にわたる訴訟活動から考えれば、騒音被害に比して補償は微々たるものといわなければなりません。しかしながら、今回の「和解」は今後の小田急沿線の騒音対策、全国在来線の騒音対策への影響を考えると、その意義は計り知れません。
この勝利は、日本における騒音対策の前進と、環境に十分に配慮した都市計画への転換のための橋頭堡になりうるものです。
原告と小田急電鉄が受諾した東京高裁による和解条項をPDFで示します。弁護団のステートメントも併せお読みください。各紙報道も掲載しておきます。
「東京高裁による和解条項」2014年7月31日
弁護団のステートメント― 高架騒音の抑止と「環境基準」の定立 ―
[2014年7月31日の東京高裁和解を伝える主なマスコミ報道]
朝日新聞 「小田急騒音訴訟で和解成立 沿線118人に5500万円」
毎日新聞 「<高架騒音訴訟>小田急和解 騒音65デシベル以下に」
東京新聞 「小田急騒音訴訟和解 住民に5500万円支払い」
日経新聞 「小田急騒音訴訟が和解 東京高裁、住民に5500万円支払い 」
産経新聞 「小田急騒音訴訟 賠償5500万円で和解 騒音低減策も盛り込む」
共同通信 「小田急線騒音規制で和解 住民に4200万円支払い」
時事通信 「高架地点の騒音水準、初言及=「日中65デシベル以下」-小田急線訴訟が和解」