和解後初の「第4回北沢デザイン会議」 6月4日に開催 |
世田谷区が主催する「北沢デザイン会議」は、2013年11月の世田谷区と小田急とのいわゆる「ゾーニング協定」を経て、2014年8月26日に初会合がもたれました。下北沢駅周辺の小田急線の地下化で生じた約2キロの鉄道跡地の利用や補助54号線および駅前広場について住民の意見を計画に反映させるためとして発足し、この会議のもとにいくつかのワークショップを行いつつ、その結果を報告し意見を募るという形で行われ、今回は4回目の「総会」ということになります。
世田谷区は去る3月30日に、下北沢の街づくりに関する補助54号線と小田急連続立体交差事業の行政訴訟の公開法廷で、被告東京都の参加人という立場で、裁判所の和解勧告に従い、今後の下北沢の街づくりについては、これまでの対立を乗り越え、「住民と行政の協働」をもって魅力ある下北沢の街を維持・発展させていく、跡地利用は公共的空間として整備していくとの「意思表明」を行いました。補助54号線の2期3期事業の優先整備路線からの除外という都の決定とも相まって、10年続いてきたこれらの訴訟は行政訴訟として異例の和解となり、裁判は終結しました。
下北沢の街づくりについて、世田谷区が新たな意思表明を行ったのですから、当然のことながら、今回の会議では、その扱いが注目されました。ところが、残念ながら、保坂区長の冒頭の挨拶の中でも、担当職員の活動報告の中でも、裁判については一切触れられずじまいでした。
担当職員からは上部利用区施設整備ワークショップとして、仮称北沢3-9広場ワークショップ、下北沢に西側エリア緑地・通路検討ワークショップ、下北沢駅周辺都市計画道路整備ワークショップ<補助54号線及び世区街10号線(駅前広場)>、上部利用区施設整備取り組み状況と上部利用施設整備スケジュールの報告がCG映像も交えながら報告されました。
「住民と行政の協働」を謳った裁判での区の「意思表明」を活かせ
これらの報告の後、質疑の時間に移りましたが、本来はこれらの報告を行う前になされてしかるべき裁判和解と世田谷区の意思表明について何ら報告がないことについて、参加者からの問われることになったことは言うまでもありません。
最初の質問にたったのは裁判の原告で代沢5丁目在住の伊藤隆允さんでした。
今回の世田谷区の意思表明と和解についての区としての評価を問い、裁判所の和解勧告と意思表明に沿って、新たな状況にふさわしい世田谷区の取り組みを求めました。「今までの北沢デザイン会議は大変熱心な議論が行われてきたが、事業計画決定は変えられないものという前提で議論がすすめられていた。しかし、今回の「和解」の結果を受けて、この北沢デザイン会議を広く住民・商業者の意見を聞き集約する場に脱皮させ一段とレベル・アップさせ、孫や子の代まで通用する街づくりを進めていただきたい。裁判所の和解勧告では小田急の私的利用ではなくて公共的利用をせよということ、歩行者を主体とした街にせよ、高層化に進まないような街にせよということであったと思う。」とのべ、
「駅前広場について一つの提案がある。グリーンライン下北沢の数年前のシンポジウムで法政大学の陣内秀信教授(イタリア都市研究家)のお話を伺ってひらめいたことだが、また、さきほどのアドバイサーの出口淳(東大教授)のご挨拶にも、下北沢の高低差のある地形を生かした街づくりを進めよとのお話があったように、駅前広場計画地は、南北で2m余りの高低差がある。現計画では、大きなバスロータリーと北側に階段と車椅子が通れるスロープの建設が予定されているが、これは商店街を南北に分断する恐れがある。広場全体を、イタリア・シエナのカンポ広場のように歩行者専用の傾斜広場とし、下北沢の街の中心となりシンボルとなる場所とすることを提案したい。そうすれば、下北沢の商店街が南北一体になる。駅前へのアクセス問題については、いくつかの対策案が考えられる。」との具体的な提案がなされました。
また、伊藤さんは詳しくは資料を見ていただきたいとして、主催者にことわった上で、用意した「まもれシモキタ!通信40号」と福川意見書および和解関連資料を会場で配布することを認めさせ、配布を実行しました。
伊藤さんの裁判和解についての質問に対して、司会者の小柴北沢街づくり課長からは、世田谷区は参加人であって被告ではないのでこちらから説明するのは難しいとの庁内での意見もあって説明はしなかったが、問われたので、経過を説明したいとして、佐藤道路事業推進課長に経緯を説明させました。
スライドに3月30日の公開法廷での世田谷区の意思表明が映し出されましたが、なぜか、実際に陳述した際の前文が省略されてあり、3項目のみが映し出されていました。
佐藤課長は今回の意思表明は参加人の立場で行ったのであって、被告ではないので、裁判の結果についてコメントする立場にないと断ったうえで、意思表明したことを評価していただいて訴訟が終わったことはよかった。事業認可を受けた事業を止めるとしたわけではないが、世田谷区が意思表明したことを守って事業をすすめたい、住民参加の街づくりをより一層丁寧に行っていきたい。と答弁しました。
この答弁に対し、木下は司会者からマイクをいただいていたので、次のような批判と、要望意見を述べました。
「私も裁判の原告であるので申し上げたい。参加人であって被告ではないから関係ないというような答弁があったが、世田谷区が補助54号線と駅前広場の事業主体であるが、事業認可に対して裁判を行うことになっているので東京都が被告になっている。また裁判は小田急線連続立体交差事業についても争われており、東京都が事業主体だが認可は国なので国が被告となっている。上部利用については東京都を介して世田谷区に任されおり、世田谷区は被告東京都の参加人という立場であり、被告ではないから関係ない、説明責任がないなどということはありえない。
今回は昨年12月に千葉大学の福川裕一名誉教授の意見書を裁判所が評価し、裁判所自身が和解勧告を出したのに対して、世田谷区がこれに応じて意思表明を行い、裁判を終えることができた。裁判所は『下北沢の現在の低層の街並みが地区の生活と文化を育み, 下北沢を個性的で魅力のある街としていることに留意し』と下北沢の街づくりの方向性を規定し、『下北沢の良好な街並みの維持・発展について必要な対応をするものとする。』としている。また小田急線の上部利用については公共的空間として整備することを求めている。たしかにゾーニングという形で小田急とは協定を結んだという事実は存在するかもしれないが、今回の意思表明に従い調整を通じて公共利用を追求していくためにには小田急がどのようなプランを持っているのかも公開して行っていく必要がある。
世田谷区の意思表明も区のほうが配って説明されるべきだ。福川意見書は和解を導いた公式文書としていただき全部その通りにやれとは言わないが、参考資料としていただきたい。
先ほどのCG映像を見ても、どこにでもあるような街になってしまっているという危惧がある。何よりも低層の街を維持発展させていくというのが裁判所の示したコンセプトであるのに、今回の世田谷区の説明は変化ということがキーワードになっていて、低層の街並みが作り上げた魅力の下北沢という概念や歩いて楽しめる街という旧来世田谷区が言ってきた考え方が変えられようとしている。裁判所のいうように、下北沢の魅力を守るために、高層化を如何に抑制するかをコンセプトとしてやっていただきたい。
また、最近、京王井の頭線の土手が取り払われたところを皆さんがご覧になると、広大な空間が広がっていることに驚かれると思われるが、この事業も小田急線連続立体交差事業の一環として行われているのだから公共利用が図られる必要がある。ゾーニングで細切れにせず、全体を見据える事業としていただきたい。」
と述べました。
これに対して、男鹿北沢総合支所長は、配布された原告団の資料を眺めながら、「裁判も終わり同じ方向に向けて下北沢の地域のため、今後、今日を契機に、これまでの対立からここに書いてあるように、『和解から協働へ』としていきたいので、皆さんと一緒に汗を流していきたい」と答弁しました。
<2014年12月に発表された立体緑地のイメージ図>
その後の会場から「小田急線が地下化された後に高架構造物はそぐわない。絶対反対だ」との意見がありました。
また、「代田駅付近に小田急電鉄により、すでに整備されてしまった長屋住宅につき、公共利用とはいいがたいと、毎回のデザイン会議で何度行ってきても、結局は長屋は作られてしまった。これが世界に誇れる整備なのか問いたい、何度言っても結局はできてしまうのかお伺いしたい。小田急ゾーンについては情報提供や意見交換する機会さえ与えてもらえないのか」との強い批判がありました。
「調整」をするためには情報開示が必要だ
この、真摯な指摘に対し、司会者の小柴北沢街づくり課長が、決めたことについてはここで議論すべき課題でないとの強引な意見で封じ込めようとしたので、木下は以下のように発言させていただきました。
「世田谷区が裁判和解で意思表明している中で次のようなくだりがある。
『今後は,事業完了まで,小田急電鉄と調整しつつ,各事業者の設置する施設等が整合性をもって配置されることにより,駅を中心ににぎわいのある街づくりを目指し,区民等の憩いの公共的な空間となるよう整備を進めるものとする。』
調整をするためには情報公開が必要だし、住民説明会もあってしかるべきだ。民間のマンション建設の事業だって説明会が義務づけられ、住民の要望で、変更することだってよくあることではないか、まして公共事業なのだから、情報は公開してほしい。」
関連して、東北沢付近で擁壁問題を抱え、上部に小田急電鉄が整備する施設問題を抱えている沿線住民からは、「小田急電鉄の情報は開示していただいて、一緒に考えていくことが必要だ」との指摘がなされました。
また、「防災拠点のために広場が必要だ、探しているから提供してくれとの区の広報があったが、小田急線上部には広大な空間の可能性があるのに、なぜ活用しようとしないのか。千載一遇のチャンスを逃すことはないではないか。防火帯緑地としての利活用を考えるべきだ。」との発言がありました。
出口敦(東大大学院教授)アドバイザーからも情報の開示を求める意見
こういった小田急ゾーンの情報の閉鎖性を指摘する意見に対し、北沢デザイン会議のアドバイザーに就任した出口敦東大大学院教授からは「私も、小田急さんも含めて事前調整会議に小田急さんの案も出していただきたいと考えている。小田急さんにもできるだけ情報を開示してもらいたいと考えている。そうゆう風にできると小田急さんを信じている」とのコメントがありました。
その後、用意されたブースごとにいわゆるワールドカフェを行った後、短冊による要望をコンサルタントの担当者が読み上げ紹介されました。「駐車場はいらない」、「鎌倉通りから出入りする駐車場は危険だ。」「高架構造物はいらない」「京王線も高架下についても一緒に検討を進めるべきだ」などとの現計画に批判的なコメントが相次いで寄せられていました。
「意思表明」の前文欠落は許されない
全体の流れを見ると、まだまだ、行政が既に決めたことなのだから、後戻りはできないというような強引な進行姿勢が垣間見えたし、スライドでの区の公開裁判での意思表明の紹介にしてからが、10年続いた裁判とのつながりを切断して説明しようとの無理のある姿勢を示しており、極めて問題ではあるが、裁判和解での意思表明の事実については否定することはできずに、尊重するという姿勢を示さざるを得なかったことは、大きな変化であると捉えたいと思います。
今回、会場に映し出された区の意思表明の掲示の際に、区があえて隠した大事な「前文」には次のように書かれています。
「原告らが,平成27年12月28日に,「下北沢再開発の『見直し』意見書」(福川意見書)を踏まえて,『原告らの和解に対するスタンス(和解案の概要)』を提案し,裁判所からは,本件紛争を円満に解決し,下北沢における道路整備及び街づくりに関するさまざまな意見の対立を超えて,自治の担い手である住民と行政の協働を形成することにより,下北沢の魅力を更に発展させていくことが大切であるとの認識の下に,平成28年3月16日付けで早期解決の勧告がなされたことを受けて,参加人世田谷区は,次のとおり,意思を表明する。」
保坂展人区長に要請書を手交
会合終了後、和解終了後も、これまでなかなか面会がかなわず、手渡しができなかった要請書を保坂区長に渡すことができました。
今後は、世田谷区に対しては、福川意見書、裁判所の和解勧告、和解勧告を出すに至った10年にわたる裁判の経緯、この前文をも含めた「意思表明」を尊重したうえでの下北沢の街づくりを、それこそ「住民と行政の協働」によって実現することを切に望むものです。