世田谷区第3回「北沢PR戦略会議」で「シモキタの新たな公共空間を再考する部会」の活動趣旨を発表 |
区主催「北沢PR戦略会議」で「公共空間を再考する部会」が始動、趣旨を発表
2月25日に新代田区民センター会議室において、第3回「北沢PR戦略会議」が開催され、7部会から発表がなされたが、木下が世話人を務める「シモキタの新たな公共空間を再考する部会」は、沿線跡地踏査による問題点を写真で発表したうえで、今後の活動趣旨を発表しました。以下に当日発表された「活動趣旨」を全文掲載します。
「北沢PR戦略会議・シモキタの新たな公共空間を再考する部会」の活動趣旨
「シモキタの新たな公共空間を再考する部会」は、2016年10月16日の戦略会議発足時に予定外の課題のテーブル第6分科会由来の部会として、当初は名称を「連立事業公共空間見直し部会」で発足させたのち、区からの要望もいれて名前を現在のものに変え活動をしています。
この間、部会を3回開催し、1月28日には小田急線上部利用について現地踏査を行い、その問題点について話し合いました。新たな公共空間を再考して代替の方策を検討することを目的としています。
シモキタ開発見直し和解に向かい合うために
シモキタ開発の見直しをハードの面から検討する部会です。下北沢の都市計画や街づくりの戦略を考えるにあたっては、昨年春のシモキタ開発見直し和解が課した課題に真摯に向き合うことが何より必要だと考えています。
東京地方裁判所は2016年3月16日、小田急線連続立体交差事業に起因する下北沢地区の道路と鉄道の都市計画事業につき、住民原告から、その取り消しと無効確認が争われてきた一連の訴訟につき、その解決のための和解勧告を行いました。これは2015年12月28日に原告住民が提出した「下北沢開発の『見直し』意見書」(福川意見書)を踏まえて、被告東京都参加人世田谷区が同事業につき今後行うべき内容を示した和解条項を実行することをもとめ、原告住民が参加人世田谷区と和解することにより、解決を図るというものでした。
その結果、和解勧告を了承した世田谷区が3月30日に公開法廷で意思表明を行ったことにより、原告住民も同法廷において国、東京都への訴えを取り下げる意思表明を行い、4月2日までに国、東京都も取り下げに同意して行政訴訟は異例の和解で終わったのでした。
あえて申し上げておかなければならないのは、私たちが取り組んでいる下北沢の問題は東京都が事業者となり国の補助金を受け、区も負担金を出して行っている小田急線連続立体交差事業という公共事業をどのように進め、またそのことから生ずる変化をどのように選択していくかという問題であるということです。
裁判所は「自治の担い手である住民と行政の協働の形成」を求め、和解勧告に踏み切りました。このことを吟味することが必要です。
協働を形成することをあえて裁判所がもとめたということは、これまでは協働が形成されていないという指摘をされたことと同義であるということを忘れてはなりません。
公共事業で新たにできた空間については公共優先の原則
行政による情報秘匿と情報操作という問題は、豊洲の問題を例に挙げずとも、下北沢の都市計画を巡て多々あったことは周知のとおりです。
連続立体交差事業が莫大な血税を投入して行う公共事業であればこそ、これにかかわる電鉄会社の私権は公共の福祉の立場から制約されていることは言うまでもありません。連続立体交差事業を国の制度として律している所謂建運協定(現「都市における道路と鉄道の連続立体交差事業についての要綱」)では、同事業によって生まれる新たな空間についての規定があって、鉄道運行上必要不可欠な施設は別として、行政側が公共のために必要とする場合には有償ではあるが公共利用を優先させるために、協議に応じなければならないという規定があります。
しかしながらこの規定が、世田谷区から市民側に正しく伝えられたことがあったでしょうか。裁判等で明らかになるにつれ最近は多少是正されてきましたが、説明会などの際に区の役人から長い間、語られてきたことは、小田急電鉄の土地なのだからお願いするしかないという説明でした。
公租公課分15%は無償だが、その余は有償でということですから、それなりの財政出動は必要でしょうけれども、地下化後の上部の土地を緑で覆うためにはいくらかかるのかという議論は世田谷区からはありませんでした。しかしながら、小田急連続立体交差事業で経堂の鉄道車庫を喜多見に移転した際には、世田谷区は莫大な費用をかけて屋上を緑化するという事業も行っているし、先般下北沢地区の補助54号線の事業延期では70億ものお金を追加事業費として計上さえしているのです。
一方で世田谷区は緑33として、緑化率33%の実現を目標に掲げながら、これの実現が程遠い中、緑化の可能性として千載一遇のチャンスである小田急線跡地の緑化利用を躊躇する理由はどこにあるのでしょうか。ちなみに言えば1986年にまとめられた小田急沿線まちづくり委員会、いわゆる川上秀光委員会がまとめた報告書によれば、地下化の際の上部利用は赤堤通りを世田谷代田駅から鎌倉通まで延伸させるプランでした。幅広い車道ならばよく幅広い緑道や公園はNGなのでしょうか。
「小田急ゾーン」も憩いの公共空間となることが求められている
世田谷区のみならず、国も東京都も受け入れた裁判所の和解勧告では、小田急上部利用について「福川意見書」の趣旨に留意することを世田谷区に求め、「防災とみどりの基軸づくり」をコンセプトとしてまとめた既存計画については「『小田急線上部利用計画』を発展させ、今後は、事業完了まで、小田急電鉄と調整しつつ・・・、区民等の憩いの公共的な空間となるよう整備を進めるものとする。」としています。
「発展させ」とわざわざ言い、「事業完了まで調整せよ」としていることに注意を払う必要がありますし、小田急ゾーンも含めて「憩いの公共空間となるよう」求めていることを忘れてはなりません。
下北沢の魅力の定義はどのようになされたでしょうか。裁判所は「下北沢の現在の低層の街並みが地区の生活と文化を育み、下北沢を個性的で魅力のある街としている」と定義し、その上で「下北沢の良好な街並みの維持・発展について必要な対応をする」ことを求めたのです。必要な対応には地区計画の見直しなども含まれることは言うまでもありません。
「住民と行政の協働」は情報開示と総合検討がまずは前提
さて、10年続いた行政訴訟は異例の和解で終わりました。法治国家である以上、公開法廷で誓約した和解はまもられなければなりません。行政のみならず国民も日本国の法人たる小田急電鉄も等しく遵守する義務があります。
一方、事業は進み、引き返せないところもあります。しかしながら、だからこそ、何が変えられなくて、何が変えられるかを見定めながら、事業完了まで住民と行政はこれまでの負のスパイラルを改め、協働する必要があるのではないでしょうか。
その前提となるのは、行政が持っている情報、小田急電鉄が持っている情報をまずは市民に公開し、なおかつ、総合的な検討を可能にするために行政は労を取るべきであるのです。そのためには一歩立ち止まる必要もあります。急がば回れです。
以下に小田急上部利用と補助54号線および駅前広場、地区計画再考についての課題を示しておきます。
Ⅰ、小田急上部利用について
平成25年に世田谷区が小田急電鉄との協定をもとにまとめた「小田急線上部利用計画」については、裁判所はこの計画を発展させ、事業完了まで小田急電鉄との間で調整をしつつ・・・憩いの公共空間となるよう整備を進めるものとする」としています。
ところで、そもそも連続立体交差事業において、ゾーン分けという形で電鉄会社と行政が区分けをすることが一般的なことであるかに疑問を持ちます。
また、下北沢駅から鎌倉通り方面へ、ニューヨークのハイラインを参考に立体緑地を導入したと世田谷区はいうが、鉄道地下化の際の緑は地上に置くのが普通のことであり、わざわざ15億円という莫大な金をかけて高架構築物の上に緑を配置することも一般的とは思えません。
再調整のうえでの協定のやり直しはぜひとも必要です。
2000年の連続立体事業調査報告書には広く緑道を取るような図が書かれていて、まさに緑の基軸を平面で実現するかのようになっていましたが、連絡通路は現計画では4メートル幅の通路のみとなっています。またこの報告書には地下駐輪場の整備が明記されていました。また今回導入している耐震性貯水槽の設置以外にも、下北沢駅付近には地域行事のイベント広場の整備や区民サービスセンター、公衆トイレ、交番、情報発信基地としての創作広場(演劇の街の一翼を担う野外劇場)の整備、民間主導の都市生活機能の向上として駅前保育や都市型図書館の適切な位置の配置を検討するとされていましたし、南北一体化のための自由通路も明記されていましたが、現計画ではこれらの計画は消えています。また駐輪場、自転車等駐車場の整備とはあるが、駐車場とは明記されていないのに現計画では駐車場が極めて広い場所を占めています。
現計画では下北沢駅の西側に小田急電鉄が駐輪場を計画しているために立体緑地が必要だとしているが、駐輪場については、補助54号線事業区間の地下や駅前広場の地下に配置することも考えられます。
また京王井の頭線土手改良後に高架下等に広大な空間が生じています。この事業は小田急線連続立体交差事業に付随する駅改良事業として行われていることから、公共側の利用を主張することが出来る空間です。駐輪場の代替地や公共施設の配置を検討できる空間ですので、行政は積極的に活用する方策を探るべきです。
地下利用を含む立体駐輪場の技術は日進月歩であり、様々な形態が考えられます。江戸川区葛西駅や平井駅ではドーム型地下駐輪場が採用されています。新座市の新座駅の地下駐輪場は3800台の収容で事業費は15億円ということであり、シモキタでも立体緑地をやめればねん出できそうです。
鎌倉通り先の駐車場については、必要性の根拠が示されていません。また、自動車交通量の増加などが危惧されます。
南側の地盤高に合わせて整地したために東北沢寄りの小田急線跡地の北側に4mもの段差が出来、周辺の住民はさらにその上に建物が建つことによる住環境への影響について上部利用計画による利用にき、住環境への影響について心配しています。周辺住民の同意の得られない構築物は立てるべきではありません。すでにできてしまった断崖についても、周辺環境への緩和策や南北分断の解消のための方策が必要となっています。
現計画に基づき、世田谷代田駅より西側に長屋住宅が建てられ、既に居住者が賃貸で住んでいるが、個人向け住宅はプライベートゾーンを公共事業で出来た新たな空間に持ち込むことになるので、「憩いの公共空間」とはなりえません。民間施設としても公共性の在り方を考えるべきで、今後はこのようなものは作るべきではないし、区が公共施設として借り上げることも検討すべきです。
Ⅱ、補助54号線と駅前広場についての扱い
シモキタの新たな公共空間としては小田急線上部空間に加えて幹線道路とは隔絶されて整備されることになった駅前広場と補助54号線の扱いが大きな課題として浮上しています。
すでに駅前広場部会が問題点を指摘し、代替案も示していますが、裁判和解の際に裁判所が評価し趣旨を踏まえることを勧告した福川意見書の考え方を示しておきたいと思います。
補助54号線については2016年4月1日に策定した東京都の23区都市計画道路整備方針でこれまで優先整備路線としていた下北沢地区の補助54号2期3期事業を優先整備路線から外しました。
このことによって、10年間は事業着手さえありないということであり、幹線道路とは孤立した「道路空間」をどのように扱うかということは、重要な課題とならざるを得ませんし、福川意見書では2期3期を前提としたワークショップでの結論は役に立たず、「平成15年の都市計画変更から相当の時間が経過していること、上部利用の方法によっては2期3期の位置づけ・性質が変わることから、改めて都市計画決定自体の見直しが必要である。上部利用が防災の観点から計画され、緑の回廊ができるのであれば、少なくとも、2期3期工区の延焼遮断帯としての直系40メートルのサークルは必要ないであろう」としています。
いずれにせよ、前提を変えた都市計画事業である以上、整備の在り方については知恵を絞り、下北沢の魅力を減殺せず、魅力を引き出すために、必要な対応をすることこそが求められているのです。
駅前広場部会で明るみにでてきた中央分離帯については、無用のものとして考え直す必要があります。
上部利用の緑の基軸とつながりを持つ空間として再考される必要があるので、駅前広間部会とも連携して代替案を検討したいとおもいます。
Ⅲ、地区計画の見直し
下北沢駅周辺地区計画は、補助54号線一期事業認可の際に、高層誘導に問題ありとする地域住民や専門家の広範な反対を押し切って策定されました。しかも意見書提出に際し世田谷区による賛成誘導があったことも発覚し、都市計画審議会の学経委員が複数で辞任しましたし、強行採決された後には当時の東郷会長も辞任しています。
新たな公共空間をどう統御するかについて、条件が変わった今、区が一般地域の高さ制限の強化とともに下北沢駅周辺地区計画地域でも、規制強化に向け見直しに進むべきです。新しい公共空間にみあった望ましい地区計画の在り方について検討し提案していきたいと考えています。