京王線高架連立事業を前提とした駅前広場都市計画案への意見書 |
2012年4月27日
保坂 展人 様
世田谷区代田4-24-15東松原テラス102号
木下泰之
東京都市計画道路区画街路世田谷区画街路第13号線
東京都市計画道路区画街路世田谷区画街路第14号線
東京都市計画交通広場千歳烏山駅東口広場
各都市計画案への意見書
はじめに
3つの都市計画案、即ち①東京都市計画道路区画街路世田谷区画街路第13号線都市計画案、②東京都市計画道路区画街路世田谷区画街路第14号線都市計画案、③東京都市計画交通広場千歳烏山駅東口広場都市計画案が4月13日から4月27日まで公告・縦覧され、4月13日と15日に明大前駅駅前広場の①の説明会が両日とも松原小学校体育館で、4月14日には千歳烏山駅駅前広場関係の②と③の説明会が烏山区民会館ホールで行われた。
これらの都市計画案は東京都が提示している京王線連続立体交差事業の都市計画案と一体の都市計画案であるにかかわらず、個別の都市計画案として提示されている。都市計画案説明会ではこの点について、まだ定まっていない都市計画案を前提に現行都市計画と整合しない都市計画案の公告縦覧をするのは違法ではないかと質問したが、出席した区の役人からは、違法性を否定する証明ができていない。
すなわち、その適法性についての論拠が示せないままでいる。この問題は京王線連続立体交差事業の在り方、進め方の問題にかかわる重大問題であるので、この問題から論じ、実態的には総合性をもった都市施設として機能する連続立体交差事業の都市計画を総合性を持って我々市民が検討できるように改める必要を提示するとともに、3.11の東日本大地震の経験をへた時代の要請からいっても、今般の駅前広場計画を含めた連続立体交差事業の在り方について、真の情報開示と市民参加を経て根本からやり直すよう求めるものである。
1、現行都市計画を踏まえぬ都市計画案は違法
都市計画案の縦覧図書いわゆる3点セットを見て驚いた。明大前駅の①の区画街路13号線の都市計画案も千歳烏山駅の②の区画街路14号線と③の千歳烏山東口広場の都市計画案も縦覧図書には総括図が示されているが、この総括図は現行都市計画図に新たな都市計画案がプロットされている。
ところが、詳細な都市計画案の図の方には、リンクする都市計画道路の都市計画線は書かれているが都市高速鉄道10号線の都市計画線は省かれている。一方、都市計画案の理由書の方にはいずれの駅のものも「京王線の立体化に併せ」との記述があり、とりわけ、千歳烏山東口広場は「土地の適正かつ合理的な利用の促進を図るため、立体的な範囲をあわせて定める」とあり、実際の立体構造を図示してもある。
千歳烏山東口広場の位置・形状からするとこれは明らかに昨年公告・縦覧はされたが、京王線連続立体交差化事業の都市高速鉄道10号線の2線高架・2線地下の都市計画変更案の都市計画線に合わせたものであって、現行の鉄道の4線高架の都市計画線に合わせたものでないことが分かる。東京都が示した都市高速鉄道10号線の都市計画変更案は現行の(都市計画としている)都市計画線の幅を狭めている。したがって、都市高速鉄道10号線の都市計画変更を決定すれば、今回、駅前広場の都市計画案の領域にふくまれている地域の地権者の土地を都市計画解除する部分が存在するのである。これは明大前駅の駅前広場と千歳烏山駅駅前広場双方に該当するが、千歳烏山ではより顕著で、9件の地権者の土地が解除される。とりわけ地元のスーパーマーケットとして著名な清水屋の土地などはこれに該当する。
詳細図面はそれぞれの駅で交差する補助154号線と補助216号線の計画線は明示されているが、現行の鉄道の都市計画線が引かれていないのでこのからくりは分からないようになっている。しかしながら、「京王線の立体化に併せて」と書きながら、現行都市計画の総括図に都市計画案をプロットせざるを得ないのは、当然である。そうであるならば詳細図にも現行都市計画線を引いておくべきであろう。しかしながら引いてしまえば、現鉄道線の上に駅前広場都市計画案が重なって見えるということになり都市計画は整合しないことがあからさまになる。現行都市計に整合しないような都市計画案は違法であり無効である。
2、総合性を否定する連続立体交差事業は成り立たない・・・総合的な観点からの見直しを!
前節で展開した違法性を指摘すると、区の役人は高速鉄道10号線の都市計画変更案と今回の駅前広場の一連の都市計画案の都市計画決定は同日に行うから整合するのだとの詭弁を弄している。これは詭弁だが、そう説明せざるを得ないということは駅前広場の都市計画案と都市高速鉄道10号線の都市計画案は一体不可分のものであることを表明しているに等しい。
連立事業が総合的事業であるために、同事業費の半分を負担する国は事業主体の東京都に連続立体交差事業調査を義務づけている。連続立体交差事業は道路事業費で鉄道の連続する立体化を行う事業であり、かつては道路特定財源を原資としていたが、道路特定財源が一般財源化した今でも、制度の枠組みは基本的には変わっていない。
この事業は、1969年に締結されたいわゆる建運協定、「都市における道路と鉄道との連続立体交差化に関する協定及び同細目協定」(「都市における道路と鉄道の連続立体化に関する要綱及び同細目要綱」)に規律されて行われており、調査は道路法に基づき、国の連続立体事業調査要綱に従って実施されている。
この連続立体事業調査は道路のネットワークから鉄道沿線の市街地再開発や街づくりも含め総合的な調査を行い、構造形式については複数案を検討し、費用比較や総合アセスも行って最適案を決めていくことになっている。
調査要綱には基礎自治体を通じて地域住民の意向を聞き土地の風土に根差した計画を立案することが求められている。当然この調査には世田谷区も関与する仕組みになっているが、世田谷区はこの調査報告書すら入手しないで、東京都が方針を決めたと称する都市高速鉄道10号線の連続立体事業の都市計画素案と一体をなす付属街路の都市計画素案を用意し、さらに昨年5月には東京都の都市高速鉄道10号線の都市計画案と併せて付属街路の都市計画案の説明会を行い公告・縦覧をした。
しかしながら、この時点に於いても世田谷区は同調査報告書を入手さえしていないといい、ようやく昨年4月の選挙で当選した保坂新区長の情報請求により、市民が先に入手していた連続立体事業調査報告書を入手するにいたった。
ところが、この調査報告書は、構造形式の複数案比較での積算根拠は市民が入手したものと同様、費用比較の積算根拠等が秘匿されたものであり、世田谷区は東京都の構造形式の決定選択について責任をもって評価さえできない立場に置かれている。
東京都の提示している京王線連立事業の都市高速鉄道10号線の都市計画変更案は2線高架・2線地下案であり、比較案の変則4線地下案(八幡山駅付近と笹塚駅付近の既存高架線を固定化しているため全線地下とはなりえていないし、全線4線地下案は検討さえされていない。)を避けた理由は2線高架・2線地下案が2200億円に対し、変則4線地下案は3000億円とし、費用比較を根拠にしている。
保坂区長は今後とも情報開示を東京都に求めていくとしているが、未だに費用比較の積算根拠すら明らかでなく、安上がりとされる全線4線地下シールド工法との比較も試みないままに、東京都の決定方針を鵜呑みにしてこれに寄り添った都市計画案を付属街路においても、また今回の駅前広場都市計画案についても強引に区民に押し付けてゆくことは、地方分権の時代に許されることではない。
京王線連立事業は25本もの交差道路に関係、影響し、駅周辺の市街地再開発にまで踏み込んでいく総合開発事業であるだけに、連続立体事業調査の段階から東京都と連携し広く情報を公開し区民や区議会の意見を聴取しつつ、構造形式の選択や周辺の都市再開発のあり方について衆議を尽くすべきであって、秘匿体制の元、区政自体がアンタッチャブルな領域をもつということ自体、あってはならないことなのである。
既に第一次の連続立体事業調査は代田橋駅・八幡山駅間について1987年度1988年度に終え、1989年3月に報告されており、今回の都市計画変更案は笹塚駅・つつじヶ丘駅間へ区間を拡張して行われた第二次の2009年3月の調査報告書に基づいたものである。
4半世紀にわたり情報を秘匿し、構造形式の検討さえ、当該区政が関与できぬとしたら、日本の都市計画制度は死んでしまったも同然である。
昨年当選した保坂展人区長は選挙戦の際に大規模公共事業の見直しを公約として掲げ、選挙戦公示前日には京王沿線の地下化推進運動の集会にも出席し、拍手で見送られて当選をした。下北沢で行った区長選の第一声では次のように語っている。
「この世田谷区内で、私に、直接、是非、区長に立って欲しい、こういわれたのは、この下北沢もそうです。大きな道路が貫通をする。その結果、世界に演劇、文化、音楽、発信をしてきている街なみが、大きく損なわれしまう危険が多いと感じた人たちが、声を上げました。なかなか、区とですね、そして住民の皆さんとの対話、対話。対話がないばかりじゃなくて、会話が成立しないということを聞きました。昨日は、京王線の高架化問題、そしてまた、二子玉川地区でも再開発問題があります。皆さん、区長というのはですね、住民の代表ではなかったんでしょうか。違いますでしょうか。それとも、石原都知事の、ある種の、指令の下に動く、管理職なんでしょうか。残念ながら、この8年間、住民の代表としての顔が見えなかった。だから、このまま世田谷区が、また、その同じ区政を継承するようなことになったら街が死んでしまう。こんな思いを私、受け止めました。」
このように選挙戦の第一声で発言した区長の下で、今回の駅前広場の都市計画案が、東京都の決めた高架2線・地下2線案への検証の術もないのに、東京都から急がせられているという理由の下に、構造形式の是非の検証もなく、東京都案を鵜呑みにし、これと同調して進むとなれば、区長が自ら語った言葉を区長に返さなければならない。
「区長というのはですね、住民の代表ではなかったんでしょうか。違いますでしょうか。それとも、石原都知事の、ある種の、指令の下に動く、管理職なんでしょうか。」
今回の駅前広場の都市計画案を撤回し、東京都に連続立体事業調査報告書の完全公開を求めた上で、都市高速鉄道10号線の事業計画の見直しを行い、合わせて関連する都市計画や街づくりの根本的な見直しを行っていただくことを要望するものです。
3、3.11以降の地震対策対応の連立事業への転換を!
京王線の2線高架2線地下の連立事業に対応した駅前広場の公告・縦覧は4月13日から始まったが、前日の4月12日には保坂区長が自ら司会を務め小田急線の東北沢-世田谷代田間を地下化した後の「線路跡地」の利用法について考えるシンポジウムが開催された。震災を考え、防災緑地を線路跡地につくることの必要性が語られたが、そうであるならば、これから都市計画を決定していこうという京王線は地下化に見直すべきであるというのは当然のことだ。
ハイラインの例は八幡山駅付近や笹塚駅付近の既存高架協の利用方法として望ましい。老朽化した高架施設は廃線にすれば上部はハイラインとなる。直下に4線地下化シールドを整備したとしても、現都市計画案よりは安上がりとなるはずである。また、輸送力増強の必要性もこれからは低くなるだろうから、在来線2線のみの地下化シールドとすれば、さらに費用は安くなる。
3.11での東北新幹線の橋げたの崩壊・崩落の経験は、今後予想される東京直下型の地震には高架構造物は危険との教訓を与えている。高架構造物で地震に耐えようとすれば相対的に地震には強い地下シールド方式と比較した際に高上がりとなるだろう。南側に側道を取らない高架構造物は危険極まりないし、安全性や騒音対策、景観管理をするためには13mほどの側道が両側に必要となろう。3.11の教訓から構造形式について再設計比較をする必要がある。
また、既に2009年の京王線連続立体交差事業調査報告書の総合アセスにも書かれているように、地下化にした場合には日照阻害は皆無だし、上部利用は高架下利用より自由度は高い。
都市計画事業を行った際に新たにできる空間の経済的価値を考慮すると、利用自由度が低く、空間の荒廃を招く高架下利用よりも、鉄道地下化による上部空間の利用に軍配が上がるはずである。
さらに言えば、環境アセスで高さ方向の騒音が現況を超えてしまうことが書かれているが、地下化に転換した場合は周辺への騒音問題を解消することができる。その上、地下化後の鉄道跡地は緑道化すれば、いざというときの避難路にも使え、防火用水や防災備蓄倉庫を設けることもできる。
甲州街道は江戸時代に江戸城から甲府方面に逃げ延びるために設計されたという歴史があるが、幹線道路となり上部に高速も通っているためにその機能はそがれている。平行して走る京王線の上部を避難路とすれば、武蔵野台地を西へ逃げる現代東京の緊急避難路とすることができる。
一石二鳥にも三鳥にもなる地下化案への転換は3.11以後であるからこそ、採用すべきなのである。
4、「明大前駅地区街づくり計画案」や千歳烏山駅周辺まちづくり協議会の議論の過程を尊重せよ・・・今こそ大規模公共事業の見直しを!
「明大前駅周辺地区街づくり協議会」が5年にわたって検討し提出した「駅周辺地区街づくり計画」は、鉄道を地下化すれば、鉄道跡地に広大な敷地が生まれこれを利用すれば地権者の立ち退きも少ないとするものであった。
この計画案を保坂区長に提出したのが本年2月14日。その1週間もたたないうちに、世田谷区は2線高架・2線地下を前提とする東京都の鉄道計画案にそった駅前広場計画の都市計画案の公告縦覧と説明会を行うこと決定しこれを強行してきた。
「千歳烏山駅周辺街づくり協議会」も、新たに駅前広場をつくることには消極的な結論となり、駅前広場計画を作成しなかったにもかかわらず、ここでも世田谷区は駅前広場の都市計画案の公告縦覧を強行した。
広大な駅前広場の南側は都市再開発を入れることまで区の役人はによわしているが、こちらの概要は未定のままだ。街全体のレイアウトをどうするかを地域住民と話す前に、都市計画決定をバラバラに切り離しながら強行するのは地域民主主義を全く無視したやり方に他ならない。
ましてや154号線や216号線の整備の是非についてさえ、話し合ってもいないのに、都市計画の既成事実だけつみあがっていくのは不信感を生むだけである。
保坂区長は公約である大規模公共事業の見直しを、未だ都市計画決定を見ていない京王線連立事業に対し行うべきである。
とりわけ、京王線連立事業においては、関連側道と駅前広場の都市計画については決定権者であることを忘れてはならない。決定権者が関連する東京都の都市計画に責任をもたないなどということはあってはならないし、東京都に判断材料さえ秘匿されている以上、情報公開なくして事業をすすめることは罪悪である。
情報公開や住民参加こそ形骸化されてはならないし、形骸化した情報公開と住民参加は民主主義を堕落させ、統治の信用をも失わすことになることは、3.11後の福島第一原発事故の一番の教訓であったはずである。
保坂区長に、勇気をこそ求める。
以上